・ある取り組み
これは、90年代半ばからあるユーザ企業で取り組んでいる、キャリアパス構築の事例である。
B社では、ITガバナンスの先進企業として有名であり、情報システム部もしっかりしている。
そのB社情報システム子会社の統合に伴って、意欲的な試みが行われた。
キャリアパスを子会社を含めて制定したことだ。
B社の情報システム部の主任と知り合った当時、印象に残る言葉があった。
「誰も情報システム部に入りたくて我が社に入社したわけではないのです」
あまりに当たり前であるのだが、あなたはどうか。
そこから、彼が仕掛けたのは情報システムの「透明化(トランスペアレンシ)の促進」である。これは、AS−IS(社内システムの現状)を常に把握することでもある。
しかし、これを推進するためには情報システム部員のスキルが必要であり、運用においても今までにないスキルを要した。
スキルの実現には、キャリアパスを制定し、情報システム部員のロングレンジでの教育が必要になる。この中で親会社ではほぼ得られないスキルが、開発現場のスキルである。
この主任が子会社への出向に伴って仕掛けたのは、開発現場を経験することをキャリアパスに入れた、情報システム部ー子会社の人事ローテーションである。
それに当然のことながら、米ウォルマート(情報システムの先進性で有名であるが、自社システムを自社の抱える数百名のシステム部員が開発している)と同じ戦略を取って、B社の情報システム戦略も自社開発を基本とした。
現在の大企業においては、情報システム部門を残していても、システム企画部であったり、経営企画部の一機能であったりする。
残っていても、システム企画をやっていて、システム予算の管理だけになっているケースが多い。
分社化された情報システム部門は、段々と親会社とは疎遠になっていくケースが多く、期待したシステムサービスを提供できていないことも多い。
どちらか一方が悪いのではなく、時代に沿ってスキルパスを変換してこなかったことが理由である。
話を戻そう。
企業におけるITスキルの内で大切なことは、「付加価値のある情報を提供できている」かを測れることが一番重要だと思われる。
では、そのスキルはどのようなもので、どうやって養われるのであろうか。
・モチベーションの創出
キャリアパス制定の前に、まず、子会社と親会社の従業員としてのモチベーションを高める必要があった。
あなた、言う人、私作る人。単なる主従関係。これではどんな制度を制定しても意味がないであろう。
役割分担の大切さを周知し、なおかつ親会社の情報システム部門の人間にとっても、情報システムに携わることは何ら企業内キャリアに影響がないこと、むしろ会社内業務を俯瞰してみることができ、今後のキャリア形成に役立つことを周知する。
そして、そのキャリアパスを制定した人間である主任がまず子会社に出向したこと。
これにより、親会社の情報システム部員に理解が得られた。
子会社にはSEを逆出向させ、システム企画を最初から手伝わせる。
これを繰り返すことにより、会社としての一体感を醸成することに現在は成功している。
・企画力とは
最近SIer、ベンダ、ソフトハウスではプロジェクトマネジメントが大流行である。
しかし、基幹業務の再構築プロジェクト立上げなどは、上のポジションでは関われないことが多い。
ところが親会社では、必ず機会がある。
つまり、プロジェクト立ち上げがなくては、プロジェクトマネジメントなどは絵に描いた餅なのであるにも関わらず、SIer、ベンダ、ソフトハウスでは機会を与えることができない。
そして企画力は、プロジェクト立上げのプロセスを経験することで養われるのである。
企画力の本質は、KnowWhoKnowWhatであり、社内のキーマンを掴まえることが90%以上の成功保証をもたらす。
子会社から出向したSEはまたとない経験と人的ネットワークを手に入れることができるのである。
・マネジメント能力
逆に子会社に出向した情報システム部門の人間は、マネジメントを経験することができる。
現在、大企業においても部下なしの課長が多数存在しているように、実際に多人数を動かしてのマネジメント経験は積むことも、積ませることも困難になりつつある。
それも5人、10人のではない。協力しているパートナ、ベンダという法人との調整も含み、得難い経験も積めるのである。
・そして隘路
当然、親会社の人間であってもIT業界に目覚める者もいて、そのまま子会社に留まるケースも出てきている。
さすがに親会社に子会社の人間がそのまま留まるということはできないが、”長期”逆出向などというケースも考えられる様になってきている。
この取り組みをまとめると、
・システム化戦略として自社開発を選んでいる
・システム子会社を単なる従属関係ではなく、イコールパートナとしている
・親会社の人間のキャリアにとってもメリットを出している
・システム子会社のモチベーションを高めている
こういったキャリアプランは、ITSSにはないコンセプトであろう。
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